大判例

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仙台地方裁判所 昭和25年(ヨ)11号 決定

申請人 鈴木ムメ

被申請人 麻生寛道

一、主  文

本件申請を却下する。

二、理  由

本件申請の理由は

一、被申請人は其の住所地である白石町の町長であつたが申請人外二百五十一名の代表者による町長解職請求により昭和二十四年十月九日其の賛否投票が行はれ総投票数七千九百一票中賛成三千九百七十一票反対三千六百八十五票無効二百四十五票で被申請人は地方自治法第八三條によつて其の職を失つたものである。

二、然るに被申請人は右投票の効力に対する異議を申立て昭和二十四年十月十九日白石町選挙管理委員会が異議却下の決定をした処更に宮城縣選挙管理委員会に訴願を申立て同委員会は同年十二月二十六日右訴願棄却の裁決をした処仙台高等裁判所に右裁決取消の訴を提起して居る。(仙台高裁昭和二十五年(ナ)第四号事件)

被申請人は右の通り一面異議訴願訴訟等により事件の延引を策する一方右事件解決に到るまでは町長の地位を失はないものとして町長たるの職務を執行し町長解職請求の原因となつた新制中学の校舍の建築を強行し解職請求者に対しては町長たるの地位を利用して不当な圧迫を加へている。

三、然しながら申請人は昭和二十四年十月九日の賛否投票によつて其の職を失い町長たるの資格なく其の職務執行の権限なきものである。

即ち地方自治法第八三條は解職の投票において過半数の同意があつたときはその職を失うと規定して居ることにより明らかである。

成程同法施行令は一一七條で一〇五條を準用し一〇五條によると解職投票に関する決定裁決判決確定に到るまで地方自治体の町長は其の職を失わないことになるので被申請人は未だに職を失わないように見えるが右施行令の規定は其の規定し得べき範囲外のことを規定したものであつて無効の規定である。

(1)  政令で規定し得べき事項は法律で特別の委任ある場合を除く外は法律で定められた事項を執行する爲に必要な定めをなし得るに過ぎず権利を制限し義務を課することは出來ない。(内閣法一一條)

自治法八三條が解職賛否の投票により職を失う旨を規定してるに拘らず施行令が法の委任なくして解職されたものゝ失職期間を延長するのは投票した一般住民の権利を制限するもので違法である。

(2)  自治法第二五八條は異議申立により処分の執行を停止しない旨を定めると共に他面職権により又は関係人の請求により必要と認めるときはこれを停止することができると規定していることより言うても施行令一〇五條の違法なことは明白である。

(3)  地方自治体の長及び議員の選挙に於ては選挙訴訟又は当選訴訟が提起されても判決確定まで長及び議員がその職を失わないのは一應選挙の効力を尊重し少数者よりの異議訴訟により選挙の効力は失わしめない趣旨であつて多数意見尊重の民主主義原理に基くものであつて此の理念よりするも解職賛否投票の結果を尊重し異議訴訟等の申立ある時は自治法第二五八條によつて処理するを正当とする。

四、以上の次第で被申請人は白石町長の資格なきに拘らず其の地位にあつて職務を執行しているので申請人は被申請人に対して町長の失職確認の訴を提起したが本案判決確定まで放置しておくと町政上回復すべからざる損害をこうむるので本申請に及んだ、というのである。

しかしながら、地方自治法第八十三條は、同法第八十一條第二項の規定による解職の投票において、過半数の同意があつたときにはその職を失うと規定しておるけれども、同法は第八十五條、第六十六條の規定により右投票について、異議、訴願及び高等裁判所への出訴を許し、同法施行令第百五條はその決定、裁決又は判決が確定するまではその職を失わないと規定している。

申請人は專ら、地方自治法第八十三條が解職の投票において過半数の同意があつたときはその職を失う、とある規定を強調し、同法施行令第百五條の規定はこれに牴触するから、無効であるというけれども、同法第八十三條の規定は單に過半数の同意があつた場合を規定したにすぎない、しかるに、解職の投票の効力が異議、訴願又は訴訟によつて爭はれているときには、過半数の同意があつたかどうか、ということが爭いとなつているのであるから、この場合を右法條によつて規律することはできない、かような未確定の場合をどう扱うかということは地方自治法中には規定がないのであるから、この場合を規定したにすぎない同法施行令第百五條が前記地方自治法の規定に牴触するということは考えられないし、又、かような規定は、地方自治法を施行する上において、欠くことのできないものであるから、これを政令で規定したからといつて、敢えて違法であるということはできない。

そして右施行令の規定は投票の結果が未確定の場合を一應仮に定めたものであるから、その性質上どのような規定の仕方をしたとしても、眞実と合致しない結果を生じることは止むを得ないことであるから、たまたま実際の結果と一致しない場合を促えて、これを以てその規定が一般住民の権利を制限したと主張するのは行き過ぎである。

もつとも、地方自治法第百二十八條、第百四十四條がいずれも一應選挙会の決定に從うこととしているのに、同法施行令第百五條が選挙会の決定如何にかゝはらず一律にその職を失わないことゝしたゝめに、甚だしく不当な結果を生ぜしめることも容易に想像されるけれども、それだからといつて右施行令の規定が無効であるということはできない。

申請人は地方自治法第二百五十八條の規定を引いて同法施行令第百五條が違法であるというけれども、一般住民の投票の結果は行政廳の処分ということはできないし、又右施行令の規定は投票の結果が未確定な場合の規定であるから、その効力を停止するとか、しないとかいつてもその内容がわからないのである。かような意味において、同法第二百五十八條の規定は本件の場合、之を考慮する余地がない。

申請人は又、地方自治法第百二十八條、第百四十四條の規定を引いて、これ等の規定は多数意見尊重の民主的原理に基くといゝ、この規定と異る同法施行令第百五條の規定の効力を爭うけれども、地方自治法第百二十八條、第百四十四條の規定は、一應選挙会の決定したことを尊重するという以上のものでないことは、異議、訴願又は訴訟の結果選挙又は当選の無効が確定した場合のことを考えれば直ちに了解しうることであるから、右規定がそのまゝ多数意見尊重の民主的原理に基くという前提の下に爲す申請人の主張は之を採用することができない。

以上の通りであるから、地方自治法施行令第百五條の無効を前提とする申請人の主張は之を採用することができない。

本件において申請人は、被申請人に対する解職の投票において過半数の同意があつたけれども、被申請人は異議、訴願の後仙台高等裁判所に出訴したというのであるから、右施行令第百五條によつて、被申請人は右裁判所の判決が確定するまでは、その職を失わないと認めるより外なく、結局被申請人が町長の職を失つたことのそ明がないことに帰着する。

仮に、申請人が仙台高等裁判所に提起された訴を本案とする仮処分を求めるのであるとすれば、それは仙台高等裁判所の判断にまつべきものであつて、当裁判所にはその管轄権がないといわなければならない。

よつて本件申請はこれを却下すべきものと認め主文の通り決定する次第である。

(裁判官 松尾嚴 伊藤正彦 片桐英才)

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